お題「キスマーク」「友愛」「自傷」
「ときどき頭の中でゴォーーーって音がして、何もわからなくなるんすよ」
薄暗い部室、蛍光灯を跳ね返すトロフィーたちの輝きがたまに呪いみたいに見える、なんて言っていたのは誰だったろう。うずくまって震える赤也の声は変なふうに反響して耳がおかしくなったのかと思う。ほらときどきあるだろう、夜の病室で誰の声もしない静寂なんてどうだい?
「人が傷ついてるか、自分なのか、それだけの話っす」
だったら自分の方がマシじゃないっすか。そこまで言って赤也は顔を上げた。少し怯えている。
「それはいつから?」
見上げる赤也の瞳を、手の甲から流れている血を、ぼんやりと見下ろす。この血を拭ってやれば優しさに見えるだろうか。
「関東大会、の……」
「うん、そうだね」
目線を合わせたかったのか傷口をよく見たかったのか、よく考えるよりも先にしゃがみこんだ。赤也の怯えが深くなる。俺は怒っているように見えているのかもしれない。
「お前の体の変化については蓮二に調べてもらっている最中だ」
近くで見ると血液はほとんど固まっているようだった。出血自体は止まっているらしい。皮が破れるほどの力で自身の手を噛むというのは、たぶんあんまり尋常な状態ではないのだろうと思う。触れようと手を伸ばす。
「幸村ぶちょっ……」
「大丈夫だよ」
可哀想に、こんなに怯えて。引こうとする手を取って、くるりとひっくり返す。手首の辺り、何箇所にも重なった歯型があった。指で辿るたび、赤也の肩が跳ねる。
「俺たちを恨むかい?」
酷であることをわかって尋ねた。案の定勢いよく首を左右に振る赤也を、愛おしくも思うし、哀れにも思う。
「先に俺の部長としての意見を言っておくよ。お前の変化を、俺は喜ばしいと考えている。それで勝てるのなら」
今度は首を縦に。
「当たり前っすよ。俺は絶対に負け…」
「だからこれはいち友人としての行動だと思って欲しい」
もう一度赤也の手を返し、いちばん新しい傷のそばに唇を寄せる。戸惑いの声が聞こえたような気がしたけれど構いはしない。強く吸って、離した場所にうっすらとした赤紫の跡ができた。
「間違っていることを間違っていると理解して続けるのは苦しいね」
「……はい」
「それでも俺たちはもう止まれないんだ」
わかったね、赤也。離した手を赤也は数度、握って開いて、を繰り返した。それからニヤリと笑ってみせる。
「当たり前っすよ!」
「……いい子だ」
罰ならいくらでも受けようじゃないか。この夏が終わる頃に。