或るカジツ
研磨は疲れることが嫌いだったし、暑さが苦手だったし、人のいる場所は避けるものだと思っていた。
「おいレシーブ乱れた!」
「ナイスキー!」
「いまブロック遅れたぞ!」
体育館には掛け声が響く。夏休みに入って大会を控えた練習は辛い。長期休みだというのに毎日毎日学校へ足を向け、冷房とは無縁の体育館で汗を流し、一体自分は何をやっているのだろうと研磨の自問は止まない。毎朝今日こそ休むと布団にしがみついたって甲斐甲斐しく連れ出しにくる黒尾が恨めしくて仕方ない。
ロクに食べ物も入れてこなかったはずの胃が痙攣を起こしてその日も彼は何度か嘔吐した。大丈夫かと声をかけるチームメイトにも皆余裕はない。大切な、三年生最後の大会が控えてるのだから、と声を張り上げ、限界を訴える脚に鞭打って飛ぶ。なんだかなあ、と自分には似つかわしくない気がして研磨の頭は時折冷える。決して逃げ出したりはしないけれど。
今日はどこができてなかっただとか、大会まであと何日だとか、猫又先生の辛辣な講評だとかでその日の練習も幕を引いた。誰もが体力を使い果たして蒼白な顔色をしている。それでも、部室に帰ればそれなりのテンションが戻ってくるのが彼らの常だった。
「行きましょうよ! 夏祭り!」
練習後の部室、うるさいと言って差し支えのない声量で叫んだのは山本だった。男子高校生という概念の表現を一身に引き受けたような山本の声はいつもどこかで大きく響いている。それは真夏の厳しい練習を終えた後でも同じだ。研磨には彼が自分と同じだけの年月を生きてきた同輩であるとは俄に信じ難かった。
「夏祭り? って、隣町のか?」
「ああ、あの神社のか」
山本の声に何人かが反応を返す。夏祭りか、いいなあ、と賛同の声が目立つ。
「隣町っていったらほら、N女のある辺りですし!」
「N女の女子が来たってお前がモテないのは変わんねぇぞ」
「夜久さんヒドい!」
纏わりつく暑さを振り払わんと次々に練習着を脱ぐ部員たちはなかなか着替えに腕を通そうとはしない。申し訳程度にフル稼働している扇風機も生温い空気をかき回すだけで、いっそ余計に暑さを際立たせてしまう。立ち並ぶロッカーの前では運動部特有の鍛え上げられた筋肉が暑苦しく並んでいる。早く帰りたい、と研磨は思った。家に帰って冷房の効いた部屋の中、クリア途中のゲームの続きをしなければ。今そのゲームは中ボスで詰まっていて、昨日はずっとレベル上げに勤しんでいたのだ。今日こそあれを乗り越えられるかもしれない。
研磨の思考をよそに部室内の喧噪は止まない。話題は夏祭りに終始して、どうやら部員の大半が参加する方向へと話が進んでいるらしかった。
「どうせなら可愛い女子と行きたいですけどね!」
「お前には百万年早ェよ犬岡」
「じゃあ山本には百億年早いな」
「だから夜久さんヒドい!」
「ふはっ、間違いないっすね」
放たれた夜久の言葉にリエーフが吹き出して、長身の腰の辺りを山本が蹴る。言ったのは夜久さんだと喚くリエーフに山本が五月蝿いと怒鳴り散らし、夜久さん殴れるわけねぇだろ、と情けない言葉で自信たっぷりに胸を張る。まったくもってよくある光景だった。
「ほんっと山本さん横暴……ところで、研磨さんは行きます?」
それまで沈黙を守っていた研磨を、リエーフが振り返った。面倒くさい。そう思いながら、着替えを終えた研磨は少しも顔を上げずにスマートフォンを弄り始めた。
「行かない」
きっぱりと、にべもなく断った。研磨としてはただでさえ暑い部室の体感温度を上昇させる彼らのテンションに辟易するばかりなのだ。そんな彼らと人の集まる場所へわざわざ出向くなど、考慮の端にもかからない。
「えー、研磨さん行かないんですか?」
「絶対楽しいのに」
犬岡と芝山が残念そうな声を漏らす。ほんの一瞬だけ画面をスクロールさせる指が止まる。彼らのことは可愛い後輩だと思っているし、縋るような目で見つめられたら多少は気持ちが揺らがないでもない。でも、だからこそ研磨は手元のスマートフォンから一切目線を逸らさなかった。また指先を滑らせ始める。
「人多いし」
「お前は相変わらず醒めてんなァ」
横から山本も口を挟む。
「虎が暑苦しいだけでしょ」
「んだと!?」
「まあまあ、研磨は行きたくないって言ってるんだから、無理強いするもんでもないだろ」
海がそう言えば山本は大人しくなる。他の部員だって大半はそうだ。
それを契機に、待ち合わせはどうするとか、浴衣を着るかどうかとか、行く気になった部員たちの話し合いで部室の空気は埋まり、次第に皆の興味は研磨から薄れていった。
「お前本当に行かねえの?」
始めは部員皆で連れ立っていても、いつも帰路の最後は黒尾と二人きりになる。家が近いのだから当たり前だ。黒尾が疑問を投げかけたのは、最後に分かれ道を反対方向へ進んだ海の後ろ姿が見えなくなってすぐのことだった。
「どこに?」
「夏祭り」
「行くわけないじゃん」
目も合わせずに研磨は言った。人が多いときには、研磨は多少なりとも気を遣う。本当は無視を決め込みたい問いかけに曖昧な相槌を返したり、掛けられた声に少しだけ振り向いたり、それは決して愛想が悪いという範疇を超えない微々たるものであったけれど、彼なりの誠意をもって対応を選ぶ。けれども相手が黒尾一人きりとなれば研磨はその一切を放棄する。黒尾はそんなことでいちいち気を悪くしたりしないし、研磨が心の底から疎ましいと思っていたって構わない図太さも持ち合わせているからだ。
「ふうん」
黒尾はつまらなそうに呟いた。おれが行きたがるなんて欠片も思ってないくせに。研磨は口に出さずそう思った。
そういえば、黒尾は部室の会話にどのような反応を返していただろうか。研磨は少しだけ記憶を辿ってみた。けれど、特にどのような記憶も思い当たらなかった。思い出せない理由は、研磨が人の沢山いるところでは自らの五感を塞ぎがちになってしまうからでもあったし、黒尾が基本的に部活動以外のことにはあまり口を挟まないからでもあっただろう。研磨も黒尾も、物事が動くときには静観を決め込めこむのが常だった。
「夏祭りっつったらさ、懐かしいよな、地蔵盆」
「ああ、あったね、そんなのも」
黒尾が口にしたのは町内の小さな祭りのことだ。地元の大人が開催し、地元の子供が参加する、一昔前にはよく見られた形態の祭りだ。研磨はその小規模な祭りでさえ気が乗らなかったけれど、黒尾に手を引かれてよく参加をしていた。その地蔵盆も、子供の数が減るに従って二年前から行われなくなったと聞いた。
「久しぶりに行かねえか?」
「行かない」
懐かしい話題を引き合いに出されても、やはり研磨は頑なだった。
「……だよな」
元から研磨は人と在ることを好まない。それは付き合いの長い黒尾が一番わかっているはずだった。本当ならばバレーボール部になんて所属する性分ではないし、なるべくなら人と関わらずに日々を過ごしたいと願っている。人生損してるぞ、なんて戯れめかして言われることもあったけれど、黒尾は基本的に研磨の個性を理解し、尊重してくれる。
案の定黒尾はそれ以上研磨に参加を強いることもなく、それきり話題を別のものに変えた。話すことさえ億劫な研磨を気遣ってか返答のいらないものばかりだった。それで研磨はいつも通り、中身のない相槌を打ちながらスマートフォンの操作に意識を集中させて家までの道程をやり過ごした。頭の中は既にクリア途中のゲームへと移行していた。
「じゃあまた明日な」
「うん」
黒尾は研磨の態度に何も文句をつけないから、彼の隣はひどく居心地がいい。研磨は臆病であるが故にひどく気を遣うけれど、本当は神経を張り巡らせることに一番疲労するのだ。ただし、黒尾によって作られたその箱庭のような安らぎが、いつまでも続くものだと思えるほど研磨は愚かでなかったけれど。
夏祭り当日も、当然の如く練習はあった。中途半端に雲が陰を落とす日であったために体育館の湿度はいつにも増して酷いものだった。練習の後の部室はやはり生温い扇風機の風を受けながら、あー、とかうー、とか意味を為さない部員たちのうめき声で埋め尽くされた。夏祭りどころの話ではない。きっともうみんな真っ直ぐ家に帰って眠ってしまうんだろうと研磨は思った。
「そんじゃ、六時に駅前な!」
「おー、じゃあまた後でな」
それなのに、着替え終わった部員たちは心なしか浮かれた様子で朗らかに手を振って別れていくものだから理解ができない。さっきまで地獄絵図だったくせにこの変わり身はなんなのだと研磨はすっかり辟易した。声を出すのも手を上げるのさえ億劫で、長い前髪に隠されて判り辛い目だけで挨拶を返した。また後で、に応えたつもりはもちろんない。
帰り道もロクに覚えていないほどくたくただった。黒尾がいつものように隣で何かを喋っているような気もしたけれど、少しも耳に入らなかった。
そうして自室へ辿り着き、クーラーをつけるなりベッドへと倒れ込んだ。汗をはらんだ肌が鬱陶しい。これから祭りへ行くだなんてのたまっていたチームメイトに断言しようと思う。あいつらは莫迦だ。
そのまま眠ってしまおうかと思ったけれど、やはりゲームの続きが気になってのろのろと電源に手を伸ばす。起動音に続いて無駄に重厚なオープニングテーマがテレビから流れる。セーブデータをロードすると昨日つまらないルーチンを積み上げてレベルの上がったキャラクターが暴れ始める。
ゲームは自分一人きりで完結できるから好きだ。誰にも邪魔されない、誰の邪魔にもならない時間は心地がいい。黒尾にバレーを教えられ、中学で部活動に所属し、高校生になって全国なんて目指し始めた頃から気付けばいつも周囲に他人がいるようになった。だから研磨にとっては一人きりになれるその時間が殊更大切なものだった。
「研磨? いる?」
けれど家にいるからといって本当に研磨は一人なわけではない。ノックとそれに付随する呼びかけにぴくりと肩を揺らした。母親の声だった。
なんだろう、夕飯にはまだ早いし、御遣いでも頼まれるのだろうか。面倒くさい。ベッドに逃げ込むか、このままゲームを続けるか。返事を返さない扉はけれど、迷う暇もなく無遠慮に開く。
「研磨?」
「……なに」
逃げる選択肢を早々に失った研磨はコントローラに集中することで無愛想を演出した。尤も、母親相手にそんな態度は欠片も意味を為さないけれど。
「あんたそろそろ着替えなさいよ」
「着替えるって?」
「今日お祭り行くんでしょ? 浴衣出しといたわよ」
「……え?」
研磨は思わず振り返り、着付けしてあげるから下りてきなさい、と踵を返す母親の背中を暫し惚けた気分で眺めた。いったい何を言い出すのだろう。操作主を失ったゲーム機から爆発音が響いて、ゲームオーバーの悲しげな音楽が流れた。我に返った頃には部屋の扉が閉まる寸前だった。
「ちょっ、ちょっと待ってよ」
「なあに?」
呼び止められた母はもう少しで隔たりを生むところだった扉を背で受け止め、振り返った。
「おれ夏祭りなんて行かないよ」
「そうなの? 鉄朗くんが研磨も行くって言ってたんだけど」
その言葉にひくりとこめかみが引き攣った。それと同時に、見計らったようなタイミングでインターホンが鳴り響く。研磨と母は顔を見合わせ、部屋から続く階段を同時に見遣った。
「よっ」
玄関の向こうでは、この世の胡散臭さをぎゅっと凝縮したような笑顔で黒尾が立っていた。身に纏っているのは渋い鶯色をした甚兵衛だ。
「よっ、じゃないよ。一体どういうこ……」
「あら鉄朗くん、いらっしゃい」
研磨の声を遮って母が言う。研磨の母は黒尾に甘い。驚くほど甘い。そりゃあ、物心つく頃には引きこもり確定と思われた息子を外へ連れ出し、あまつさえ運動部に所属までさせたのだから、感謝してもしきれない、といったところだろう。
「ごめんなさいね。研磨、まだ準備できてなくて」
「いいよおばさん、待ってるし」
「上がってちょうだい。麦茶くらいしか出せないけど」
慣れた調子の会話を交わし、研磨のことなど気にも留めないで二人は家の中へと入っていく。研磨の母を相手にするとき特有の、自分は小さな頃から少しも曲がらず育ってきましたとでも言いたげな黒尾の態度に酷く苛立った。
「ちょっとクロ!」
「なに?」
平然と我が家のごとく敷居をまたぐ黒尾を必死の思いで呼び止めた。振り返った彼は、さっきまでとうってかわり、人が悪いとしか形容しようのない笑みを浮かべていた。
「おれ行かないって言ったよね?」
「そうだっけ?」
素っ恍ける黒尾に殺意が湧いた。それで思い出した。黒尾は研磨を理解しているけれど、それ以上に強引なのだ。そのことを失念していた自分に歯噛みしたい気分だった。
「おれ、クロのそういうとこ、嫌い」
「俺は研磨の浴衣姿好きだけどな」
黒尾は研磨の剣呑な目線など気にも留めずにやにやと笑っている。それが研磨を余計苛立たせることを十分に知っている。
「そんなの全然いらない。とにかくおれは行かないから」
「おばさんも楽しみにしてたぜ? それに、今のメンバーで祭りに行けるなんてこの夏しかねえんだから」
そういう言い方はずるい。研磨は溜め息を吐いた。基本的に黒尾の煽り上手は他人の出来事だったけれど、自分に向けられたってやはりあしらえる範囲には限度があるのだ。
どうしたってこんな蒸し暑い夏の日に皆同じところに集まるのだろう。研磨の頭に浮かぶのはただひたすらその疑問だけだった。
立ち並ぶ屋台の大半は、やれ焼きそばだのたこ焼きだのと煙と共に熱気を振りまいている。チョコバナナやかき氷を売る店先だって溶け行く氷に右往左往している始末だ。猛暑という単語はあまりに頻繁に使われすぎて大した意味を持たなくなっているけれど、夏は暑い。そのことだけは昔から変わらないと研磨は思う。
「浴衣女子がいっぱいいる……!」
「よかったっすね山本さん!」
テンションを上げるチームメイトと反比例するように研磨の心は冷えていく。研磨の抵抗虚しく、母親に浴衣を着付けられて、チームメイトとの待ち合わせ場所まで黒尾に引きずって来られたのだ。浴衣似合うじゃねぇかと何人ものチームメイトから言われたけれども、そんなことで研磨の心が動くはずもない。暑いし歩きにくいし、今すぐにでも脱いでしまいたい気持ちでいっぱいだった。
それにしても、と研磨は黒尾の背を見遣る。その身を包む甚兵衛に、つまり研磨が着せられた浴衣と比べれば明らかな軽装に苛立ちを感じる。
「なんだよ?」
研磨の殺気に近い視線に気付いてか黒尾が振り返った。こんなときばかり黒尾は敏感だ。
「……その格好」
「見蕩れるほど似合うか?」
「クロなんて死ねばいいのに」
「ええ!?」
ちょっと研磨さん? と焦る声には無視を決め込んで、少し離れた屋台に群がる後輩たちを覗き込んだ。
「なにやってんの?」
「あっ、研磨さん! 射的っすよ射的。チョッパーのぬいぐるみが欲しいんスけど全然当たらなくて」
「ふうん」
簡素な裸電球に照らされた屋台には、やはり簡素なベニヤ板の商品台が備え付けれられていて、普段アニメショップでは見向きもしない種類のグッズが並べられていた。よく見ればぽつりぽつりとコアなキャラクターも紛れ込んでいる。ここの店主、けっこう好きものかも。そう思って少し目線をずらしてみたけれど、店主はいかにもアニメなんて見なさそうな、普段は工事現場で地面を掘っていますといった風情の無精髭を生やした中年の男だった。見るとしたって昔ながらのロボットアニメか、逆に美少女アニメか。そんなところだろう。
「次は絶対当てるよ!」
隣で芝山が叫んだので研磨の思考は中断された。
見てくれだけは本物そっくりの銃を構えた芝山は慎重に的を絞っている。片目を瞑って、呼吸を整え、正確にチョッパーを見据える。銃口は集中故に少し震えていた。そしてぐっと指先に力が込められる。勢いよく飛び出したスポンジの弾は狙った的を少しだけ掠め、けれど倒すことは叶わずベニヤ板に当たって落ちた。
「惜しい!」
犬岡が叫ぶ。いつの間にか集まっていた周囲のチームメイトも悔しそうな声を漏らす。研磨は銃身と的とを交互に眺め、それから芝山へすっと手を差し出した。
「ちょっと貸して」
後輩たちは意外な申し出に目を見合わせた。数秒の隙間があって、ぱっと笑顔に変わった彼らから銃を受け取った。
こういうのは得意な方だと思う。ガンシューティングはゲームのジャンルとして特別好きというわけではないけれど、狙った場所へ弾を放つ、それはどちらかといえばトスの要領だ。研磨は台に寄りかかってポジションを決め、背を屈ませた。集中が喧騒を追いやって真空のような虚を造り出す。真っ直ぐに銃口の先を追いかけ、目的のぬいぐるみ一点に視線を固定した。
引き鉄に指を置く。銃口が微かにぶれる。息を吐く。銃口が静止する。引き鉄を引く。
ぽん、と軽快な音をたて、ぐらりと揺らいだぬいぐるみは重心を崩し、後ろへと倒れた。
「研磨さんすっげー!」
犬岡が目を輝かせた。その様子に、どれほど恵まれた環境に育てばこれほどに真っ直ぐ育てるのだろうかと純粋な疑問を抱く。あまりにキラキラした瞳に慣れなくて自然と目線が斜め下へと下りた。
「コツさえ掴めば簡単だよ」
おう兄ちゃん、すげえな、と豪快に笑う中年の店主から商品を受け取って、振り向き様に後輩へと差し出した。
「え、もらっていいんすか?」
「いいよ。おれいらないし」
「やったー!」
声を上げて喜ぶ後輩にやはり気後れする。
そそくさと屋台を後にしようとする研磨を、けれど人だかりが邪魔をした。チームメイトだけではない。無駄に大きな身体をした集団の群がる屋台を珍しがってか、通りすがりの人々も足を止めていた。すごい、という声が方々から聞こえる。途端に羞恥心が頬まで迫り上がった。恥ずかしい。逃げたい。消えたい。
「研磨さーん!」
身の置き所のない研磨に追い打ちをかけるように、今度は空間を切り裂く大声で名を呼ばれた。見れば頭一つ飛び抜けたリエーフが群衆をものともせず走ってくる。
「林檎飴買ってきましたよ!」
あっという間に研磨の前に立ち、リエーフはそう言って真っ赤に光る林檎飴を差し出してきた。その横で、お前アップルパイ好きなんだから林檎飴も好きだろ? と、あまり論理的でない決めつけで山本が胸を張っている。
なんだかなあ、と研磨は思う。この空間にすっかり辟易しきる自分のテンションなど気にも留めないで、あれこれと騒ぎ立てるチームメイトはどこまでおめでたいのだろう。おれなんて放っておいた方がきっと何倍も楽しめるのに。
「……ありがとう」
それでも、口をついて出たのは素直な感謝だった。山本とリエーフは少しだけ目を見張り、それから満面の笑みで「どういたしまして」と笑った。
ふと視線を外すと、こちらを見て笑う黒尾がいた。彼がよく浮かべる人の悪いものとは少し違う。嬉しげにも、寂しげにも、どちらにも見えてどちらでもないような。本人さえ気持ちを決めきれない種類の、けれど穏やかであることには違いない表情だ。
黒尾は時折、研磨にだけそういった表情を見せることがある。本当に研磨にだけなのかどうか、四六時中一緒にいるわけでない彼にはもちろん確信があるわけではない。ただひとつ言えることは研磨がその表情をあまり好んでいないということくらいだ。居心地が悪くて目を逸らした。
「クロ、その顔気持ち悪い」
眉を顰めて素直に言えば黒尾の口元がぴくりと引き攣った。
「なんか今日俺に対して当たり強くない?」
「気のせいでしょ」
黒尾は、ほんっと可愛くねえな、なんて言いながら、それでも笑って研磨の背をぽんと叩いた。
噎せ返るような人混みをぬって彼らは目についた屋台のいちいちに立ち止まってははしゃいだ。部活後の男子高校生の胃袋はほとんどブラックホールに近く、焼きそばもたこ焼きもお好み焼きもベビーカステラも、誰かが購入しては奪い合い、時折その一部が宙を舞った。スーパーボールや金魚を救おうとしたパイは片端から破れた。日曜の朝にやっているらしい特撮のお面を被りだす者もいた。何が起こっても彼らは笑い声を上げてばかりだった。
そうして、一応神社も参拝するか、なんて声が上がった頃だ。研磨の耳に微かな金属音が届いた。
——チリン
そう、空耳のようにたった一度だけ。ふと振り返ってみれば、一瞬ぽっかりと開いた空間に、一匹の猫がいる。毛並みのいい三毛の模様を纏い、黄色がかった大きな目を光らせている。ふらり引き寄せられるように研磨は集団から抜け出した。
近付いたって三毛猫は少しも逃げる素振りを見せなかった。随分と人馴れしているらしい。喉元をくすぐれば、真っ赤な首輪につけられた鈴がチリンチリンと響き、耳を掠めた音はこれだったのかと気付く。
「おまえ飼い猫なの」
しばらく気持ち良さげに目を細めていた三毛猫は、ふと何かに気付いて身を起こした。それから、研磨の左手に、ひいては握られた林檎飴に飛びつこうとする。決して悪くない反射神経で研磨は身を引いた。
「だめ。あげない」
立ち上がった研磨の左手めがけて猫がぴょんぴょんと跳ねる。しばらくの間そんな戯れを続けていたが、やがて諦めたのか、猫はくるりと向きを変えて走り去った。
「あ」
……行っちゃった。瞬きの合間で三毛猫の姿はすっかりと祭りの夜に紛れてしまった。溜め息を吐いて立ち上がる。そこで異変に気付く。
周囲を見渡せば見知った姿が残らず消えていた。あれだけガタイがよくて、声もデカい集団なのに、祭りの熱気と人混みに隠されて彼らの手がかりが一切ない。
——ああ、はぐれたのか。
そのこと自体はそう珍しいことでもないので研磨は冷静に受け止めた。けれど今は練習試合へ向かう道行きとは違うのだ。途端に知らない人の笑い声が、くだらないお喋りが、鼓膜を破らんとばかりに響き始める。今まで囲まれていた親しみのある騒がしさとは違う、本物の喧噪が押しつぶすように研磨を襲った。無理矢理着せられた浴衣の帯が消化器を締め付けて、今度こそ研磨は吐いてしまいそうになった。
命からがら、と、多少誇張じみているが、研磨はそのくらいの必死さでもって祭りのメインストリートから逃げ出した。隣町といっても普段は足を運ぶこともなく、土地勘なんて欠片もない。時折電車で出掛ける繁華街の方が抜け道を知っているくらいだ。
どこか休める場所を、と当てもなく歩を進めばやがて寺らしき土地に行き当たった。中流家庭の一軒家程度の広さしかないその寺にはひとつの照明器具もなく、昔ながらの瓦屋根がただ夜に沈んでいた。
そういえば、この祭りは向こうの神社のものだったっけか、と人一人いない寺の境内を眺める。宗教のことはよくわからないけれど、どうせ祭るなら一緒に祭ればいいのに、と思いながらも、今はその静謐がありがたかった。
静まり返った境内の本堂脇に高床式の小さな蔵があった。一体何が納められているのかは知れないが、入り口へ続く三段きりの階段が目についた。休むには丁度いい。今一度ぐるりと辺りを見渡して、そこに落ち着くことを決めた。
さて誰に連絡したものか、と暫く放置していたスマートフォンを取り出す。画面にスイッチを入れて驚いた。ロック画面にはいくらスクロールしても終わらないほどの着信履歴が表示されていたのだ。着信の主はほとんどが黒尾で、合間にチームメイトの名も挟まっている。マナーモードにしていた所為か全く気付かなかった。
どうしようかと逡巡するうち、やがて画面が着信を告げた。表示された名はやはり黒尾のものだった。
「はい」
『もしもし? 研磨!?』
「あ……うん」
通話アイコンをタップすれば耳元に当てる間もなく焦った声が響いた。それから、少しくぐもった声で「繋がった」と言って、後ろからどよめきが聞こえた。よかった、とか、早く迎えに行こう、とか、ぼやけた音で自分が随分と探されていたらしいことを知る。研磨はよくふらりと集団を抜け出すことがあるけれど、そのことが周囲に影響を及ぼすということには今ひとつ慣れない。
『今どこだ!』
「どこって……」
研磨は携帯を耳にしたままぐるりと辺りを見渡す。土地勘のない研磨に伝えられる情報は決して多くない。
「なんか、寺」
『寺?』
「うん」
『よし、そこで待っとけ! 動くなよ!』
「え、ちょっと……」
もう少しわかりやすい情報でも、と思ったそばから通話が切れる。
「……なんだかなあ」
見下ろしたスマートフォンの画面には汗の雫が点在していた。これだから電話って嫌いだ、と浴衣の袖で画面を拭う。
電話が切れると再び静寂が空間を覆った。静けさは普段ならば気も留めないような振動を鼓膜に与える。十分に落ち着いた研磨に届いたのは、ほとんどさざ波のようになっている祭りのざわめきと、鈴虫の鳴き声だった。
気がつけばもう夏も終わろうとしている。暑苦しい毎日を生き延びることに必死で少しも気付いていなかった。晩夏の夜、頬に吹き付ける風もどこか乾きを帯びている。研磨はひととき、微かに届く喧噪に耳を傾け、屋台と提灯が煌煌と照らす夜空を眺めた。それから、ずいぶんと遠くまで来たものだな、と思った。
それから黒尾が辿り着くまでそう長い時間はかからなかった。
「見つけた」
聞き慣れた声が空間を裂く。緩慢な動作で研磨は声の主を探した。暗がりから姿を現し、少し離れた場所で腰に手を当てる黒尾は随分と落ち着いて見えた。電話口ではあれほど焦った声を出していたくせに、まるで呆れたような顔をして立っている。
「見つかった」
「じゃねえよ」
大方どこかで呼吸を整えてきたのかもしれない。いつだったか遠い仙台の地で迷子になったときも、そのようにして平然と現れたのだ。まだ日差しが強くなる前の五月初旬なのに、ジャージを脱いだ半袖で。
「なんでお前すぐにいなくなんだよ」
がしがしと後頭部を掻きながら近付いてくる。滲む祭りの灯りが逆光となってその表情は窺い知れなかった。
「怒ってる?」
「怒ってねえ。慣れた」
大股で歩いてくる黒尾の足音は砂を蹴散らすように乱暴だったし、声もいつもより幾分低かったから、そうは言っても怒っているのだろう。説教でもされるのかなと視線を落とす研磨をすっかりと陰で覆い隠す距離で、黒尾は止まった。
「顔色悪ィな」
「え?」
「ほら」
次の瞬間、冷たい感触が頬を襲った。
「ひゃっ! ……なに?」
頬に押し付けられた物体に手を遣って、それから正体に気付く。
「……ラムネ?」
「おう。これ好きだろ」
そうだっけ。意識したことのない好みを提示されて首を傾げる。特に求めたこともないし、ここ数年見かけもしていない。でも、この感触には、覚えがある気がする。
黒尾が手を離しても瓶を頬に当てたまま、研磨は目を閉じた。冷たさがすっと血管を引き締めて心地よい。耳元ではしゅわしゅわと微かな揮発音が響く。
それから、目を開いて、一度すっかりと受け取ったラムネの瓶を黒尾に突き返した。
「はい」
隣に腰掛けようとしていた彼の動きが止まる。
「はい?」
「開けて」
「それくらい自分でやれよ」
「やだ。溢れるし」
お前ね、と溜め息を吐いて、それでも黒尾は瓶を受け取る。研磨はくすりと笑みを零した。仕方ねぇなと言いながら黒尾はプラスチックの小さな器具を取り外し、蓋に詰まったビー玉を押した。ぷしゅ、と爽快な音が響く。
「うわっ」
勢いよく溢れ出した炭酸の液体は、咄嗟に開かれた黒尾の足の間からぼたぼたと落ち、地面に染みを作った。瓶を持つ手を巻き添えにしてしゅわしゅわと軽やかな音を立てながら。ラムネという飲み物は零さず開封するのが酷く難しいものであるけれど、それにしたって限度がある。
「走ってきたんだ?」
「……悪ィかよ」
ふいと顔を逸らす黒尾に吹き出しそうになった。黒尾はいつもそうだ。いつだって、何があっても余裕たっぷりに皮肉な笑みを浮かべているくせに、研磨がいなくなっただけで簡単に慌てふためく。果たしてそれだけの価値が自分にあるものか、研磨には少しも理解が及ばなかったけれど、嬉しくないといえばきっと嘘になる。
研磨は黒尾の手からラムネの瓶を取った。吹き出した液体でべたべたしているそれを、けれど不快には思わなかった。
「ありがとう、クロ」
「おう」
口に含んだラムネは、それはそれは爽やかな風味であって、研磨の嘔気を一瞬でどこかへ追い遣ってしまった。顔色を取り戻した研磨に安堵してか、黒尾が少しだけ表情を緩める。そして未だに機種変更をしないガラケーを取り出した。研磨を探しているだろうチームメイトに発見の報を知らせるためだろう。
研磨はちらりと明るさを滲ませる空を見て、それから黒尾の甚兵衛を掴んだ。
「なに?」
怪訝そうに黒尾が振り返る。
「皆に知らせるなら、場所は言わないで」
「なんで」
「ちょっと休んでたいから」
「……あ、そ」
それから誰に電話を掛けたのか、きっと三年生の誰かなのだろう、一言二言話してすぐに黒尾は通話を切った。
祭りの喧噪は遠い場所で続いている。裸電球独特の橙色をした光が空を照らす。祭られる神社の明るさと反比例するように、忘れ去られた寺院はひどく静かで、そして暗かった。隣にいる黒尾の表情さえすっかりと隠している。
「久しぶりだな、お前と夏祭り来んのも」
「久しぶりってせいぜい三、四年くらいのものだよ」
「十分久しぶりだろ」
それもそうかもしれない。もうなくなってしまった地蔵盆のことを思い出そうとして、思い出すという行為が必要だったことで研磨はそう気付いた。
「やっぱり好きじゃねえか。こういうのは」
「うん。あんまり」
「その割には楽しそうだったけどな」
「なにそれ」
意味わかんない。不貞腐れるようにそう言って研磨は手元のラムネを見つめる。
なんだかなあ、と研磨は思う。なんだかなあ、おれはちっとも欲しくないのに、気付けばいつも、普通の人生を送る誰もが通る場所にいる。地元の夏祭りで浴衣を着て遊び回るなんて少しも望んではいなかったはずなのに。
小学生の頃黒尾と行った夏祭りは、もっとこぢんまりとしていた。近所の子供たちが朝早くから集まり、大人たちの作ったスーパーボール掬いやゴム鉄砲の射撃で一喜一憂して、ポケットの中でしわくちゃになった引換券をお菓子と交換して頬張った。太陽が一番高くなる頃には、テントの張られた休憩所に、型抜きに勤しむ子供と、ささやかな屋台で提供される焼きそばとビールに舌鼓を打つ大人たちが溢れた。そして集会所で小さな映画の上映会が行われ、夜になると盆踊りをした。
人見知りの研磨にとっては気の進む行事ではなかったけれど、いつものように黒尾が強引に手を引くものだから、結局のところ毎年参加してしまっていたことを覚えている。研磨が暑さに参れば黒尾は彼の頬によく冷えたラムネをあててくれたし、掬い網を早々に破って項垂れる黒尾に研磨がキラキラしたスーパーボールを分けてやったこともある。どの記憶がいつのものかわからない程度の違いを持った思い出は、いつしか一緒くたになってぼんやりとした夏の思い出に変わっていた。
「研磨」
黒尾が呟く。
「なに?」
「あいつら、好きか」
「あいつら?」
「あいつらっつったらあいつらだろ。山本とか、リエーフとか」
「……ああ」
黒尾は夜久たち三年生の名前を上げなかった。その意図に研磨はすぐ気付いた。去っていく者ではなく、残る者。少し体温が下がって、そのことに気付いた瞬間はっとする。まるで感傷みたいだ。
「バカだけどさ。笑えてくるだろ? あいつら見てると」
片眉だけを下げて笑うのは黒尾の癖だ。何かを偽るでもなく、誰かを揶揄するでもないときの、少し情けないような表情が漏れるのはそう頻度の高いものではない。
「嫌いじゃない……と、思う」
自然、研磨の声は小さくなった。
「あんまり迷惑かけんなよ。お前は俺がいなくてもちゃんとやっていけんだから」
「どういう意味」
「そのまんまの意味だよ」
そう言った黒尾の声も、少しだけ寂しさを滲ませていた。
研磨は半分くらいになったラムネを軽く振った。くびれた空間の中でビー玉がカランと音を鳴らす。
わかってはいるのだ。たとえば一年後の夏、またチームメイトで夏祭りへ来たとしても黒尾はいない。それどころか、日々の練習の中でも、登下校の中でも、どこからも黒尾は姿を消す。別に初めてのことじゃあない。中学へ上がるのも、高校へ上がるのだっていつも黒尾が一歩先だった。たった一年、されど一年。その期間は出会った頃からずっと、黒尾と研磨の間に深く横たわり続けている。
「おれ、一人でも朝起きれるし、スマホの地図見れば迷子にもならないし、ラムネだって自分で開けられるけど」
「……おう」
研磨の言葉に引きつったような相槌が返る。少し可笑しくなった。
「でも面倒くさいから。クロがいた方が、いい」
「お前なあ……」
今度こそ、黒尾の表情は苦虫を噛み潰したようなものとなった。ひどく身勝手で傲慢な発言であると、発した研磨が一番わかっている。
「どこで育て方を間違えたんだか」
「最初からでしょ」
「でも来年はそれじゃ困るんだよ。お前を主将にしようとまで思ってるわけじゃねぇけど、お前が中心だってことには変わりねぇんだから」
「おれがなりたくてなったんじゃないよ。クロがそうしたんじゃん」
「それはまあ、そうだけど」
歯切れ悪く黒尾は言った。音駒に入学したときには、既にその環境は作り上げられていた。研磨が入部して最初に言われた言葉は「黒尾から色々聞いてるよ」という不穏なものだった。
思えば不本意の連続だったように思う。態度だけが大きな二学年上の先輩に目をつけられてしまったことも、コートの真ん中で献身を集め意志を求められ続けることも、そのどちらだってちっとも研磨の望んだことではなかった。きっと黒尾と出会っていなければ少しも触れることのない世界だったろう。
そうやって連れて来られた世界がいっそすっかりと居心地の悪いものであればよかったのに。なんだかんだで甘んじている自分はこの世界がそんなに嫌いではないのかもしれない。そう思った瞬間どこか悔しくて、それから優しいような気持ちにもなって、隣で頬杖をつく黒尾の右腕にそっと触れた。
「でも、ちゃんとやるよ。高校まではバレーやるって、約束したし」
「……ふうん」
高校までは、ね。漏れた呟きに含まれた微かな不満には気付かないフリをした。
これまで研磨が主体的に決めてきたことは少ない。ほとんどないと言ってもいい。それでも、世界は少しずつ広さを増し、繋がりは増えて、気付けば社会的動物であるヒトに限りなく近付いてきたことを実感する。祭りの夜にこうして浴衣でラムネを飲んでいることが証拠だ。
「よし、皆んとこ戻るか」
「うん」
立ち上がる黒尾を研磨も追う。自然、昔からそうしてきたように伸びてくる掌があった。けれども、研磨の左手には中途半端に齧られた林檎飴があって、反対側の手には半分ほどになったラムネが握られている。差し出された手をどうしたものかと逡巡する。
「……なんかお前だけ祭り楽しんでんな」
「おれのせいじゃないよ」
「どっちか寄越せ」
暫し迷って、ラムネを掲げた。息を切らして駆けつけてきた黒尾はラムネひとつきり持っていただけで、たぶん少しも水分を取ってはいなかった。
「はいサンキュ」
そう言ってラムネを取り上げた黒尾は空いた研磨の手を掴んだ。いつかの夏祭りもこうやって手を引かれていたことを思い出す。あの頃よりすっかりとサイズの変わってしまった掌の、けれど温度は変わらない。
もう少しだけ、もう少しだけでいいから、このぬるま湯みたいな世界に守られていたい。それを当たり前だと思えるうちは。
きっとこれからもっとずっと、世界は広がっていくのだろう。研磨の望むと望まざるに関わらず。でもその水先案内は、いつまでも一人であればいいと、それで十分だと夜空に想う。
祭りの明るい通りへと引かれるがままに歩いていると、左手に握ったままの林檎飴が目に入った。少し齧った。
季節外れの林檎は渋い。それでも、決して美味しいと言えないその果実は、伝わる体温と過ぎ行く夏の日に覆い隠され、微かな甘さを残した。