小ネタ3-2
だいぶ前に一万字くらいまで書いたけれども収拾つかなくなってゴミフォルダ行きになった3-2話。夏休み明けで、千歳と色々あってなんとなく凹んでる白石くんを謙也くんが海へ連れ出す流れの一部分です。地の文に関西弁はやっぱ似合わないですねー。この子達は日常が漫才なんだろうなと思います。お互いに抱えていることがあるなあと思っても自分から言い出すまでは待ってあげるんだろうなとか。3-2友情好きですはい。3-2の黒板消しに付着してるチョークの粉でいいからなりたい。
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チャリで学校を飛び出し、まずは国道25号線に向かう。あの蝉丸が歌っとった逢坂の交差点で信号を渡り、天王寺動物園の西北にあたる交差点まで突っ走る。左折したら右側に通天閣が見えて、謙也が腹ごしらえしよ言うからジャンジャン横丁に寄り道することにした。独特のごちゃついたアーケードは走りにくくて、一旦チャリを降りて押して歩いた。行き交うおばちゃんがいちいち「兄ちゃんら男前やなあ」って声かけてくるから、愛想笑いで返す。
「やっぱホルモンうどんやろ」謙也が言う。
「いやでも一杯450円は高いて」俺は小遣い日前やった。
「ほなどうすんねん」
「あれでええやん、カップのやつ、割り勘しよ」
五百円で四本入ってるカップ販売の串カツを分け合いながら、通天閣方面へと歩く。普段あんま食べへん油っぽさは好きになれへんけど、こういうB級グルメもたまには悪くない。
普段北に帰る俺らはあんまりこっち方面に来ることはなかった。久しぶりに通天閣の麓まで行って、何となく見上げて、さすがに登ってる時間はないからそのままスパワールドまで南下した。この辺まで来ると、この地域特有の十日くらい風呂入ってないみたいな臭いが鼻をついてくる。素人にはオススメせんディープスポットやから、俺らも足早に駆け抜けた。
しばらくは直進で、右側には時折阪堺電車が見える。その度にいちいち謙也が「浪速のスピードスターが路面電車ごときに負けるかっちゅー話や!」と張り合おうとして通行人を轢きそうになるもんやから、抑えんのに苦労した。
気まぐれに西へと走る道を変えながら、阪堺電車の線路も超えて松虫通まで走り抜けた。右折して工場に突き当たるまでしばらくそのまま西に走る。途中引っかかった南海高野線の踏切では、謙也がイライラしすぎて遮断機を折ろうとしたからしばいた。工場の角を左折すると、また直進。この道が南西方向に斜めに走ってるから近道やてクラスの子が教えてくれた。それにこの通りは海に一番近くて、工業地帯の低い建物の合間から大阪湾が見え隠れしとる。浜風とはちょっと違うかもしれんけど、しっかり潮の香りが漂ってきて、汗ばんだ肌に心地良かった。
「白石!橋見えたで!」
適当に左折して南港通りに合流すると、一本目の橋、平林大橋が見えた。元から速い謙也がさらにスピードを上げる。
「ちょ、待ててお前!」
謙也が今日ママチャリでほんまによかったと思う。スピード重視の謙也は二年のときに十万くらいするクロスバイクを買ってもろて、遅刻しそうな日は乗って来る。けど盗まれんのが怖いとか何とかで、普段は基本的にママチャリで登校する。もし謙也が今日寝坊してたら、とてもやないけどついて行けへんかった。
一般道からそのまま続いてる平林大橋にトップスピードで乗り込んだ俺らは、瞬間的に海に包まれる。
「白石ぃー!」前にいる謙也が叫んだ。
「何や!」
「気持ちええなあ!」
「せやな!って前見ろや!」
派手な音がして、余所見した謙也が欄干にぶつかった。けっこう勢いあったから投げ出されるんちゃうかと思ったけど、なんとか踏み止まったらしい。ほんま心臓に悪い。
「危ないやろが!」
「白石……」
「何や」
「チェーン外れた」
「アホか!」
橋のど真ん中で、俺らは海に目もくれずチェーンの修理に精を出すハメになった。幸い切れたりはせず外れただけやったから、何とか素手で直すことができた。指先は錆だらけになった。
「お前のせいで汚れたやんけ」
赤茶けた色の移った包帯を苦々しく見つめる。
「まあええやん、旅にトラブルはつきもんやで」
「ただのお前の不注意やろ」
立ち上がって見た謙也の顔には、無意識に汗を拭ったときにでもついたのか、しっかりと錆がついていた。怒るつもりやったのに、噴き出してしもた。
「お前、顔、やばい」
「は!?男前捕まえてなんちゅーこと言うねん」
「ちゃうちゃう、ほっぺた」
「は?」
そう言って謙也が自分の頬に手をやると、さらに汚れた。いよいよ笑いが止まらんなった俺を睨んで、謙也が俺の頬に手を伸ばしてくる。
「ちょ、やーめーろーや!」
「うっさい、お前も道連れや」
俺らはお互いの顔を汚すことに必死になって、端から見たらケンカしてるみたいやったかもしれん。けどお互いの汚れた顔とかガキみたいな行動が可笑しくて、結局は二人で腹を抱えて腹筋が攣りそうになるまで笑った。
「さっさと行くで」
何分くらいそんなことをしてたんかはわからんけど、何とか自転車に跨がり走り出す。落ち始めた太陽のせいかさっきまでよりも涼しい風が吹きつけた。こんなに笑ったんは、久しぶりな気がした。
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そんな感じで南港まで行く感じの。なにわの海の時空間見て恐竜の卵やろとかいやワープゾーンやろとかひとしきり騒いで、笑い疲れてあーあ、って腰降ろしてふと空を見たら夕焼けが綺麗でっていう感じの。そんな3-2が好きです。