即興小説ログ「ガラスの十代」※お題:頭の中の殺人犯

 鼓動と同じ速さで伝わる鈍痛にはいつまで経っても慣れやしない。そいつはドクドクと遠慮なく眼窩の奥を打ち鳴らして容赦なく思考を停止させる。窓の表面に伝う雨垂れが水の膜を作って息が苦しい。雨の日はいつもこうだ、嫌になる。  雨なんて昔から好きではなかった。濡れると冷たいし傘は邪魔だし湿気で髪は爆発するし。好きなのは突き抜ける高い蒼い空とかいついつまでも流れてゆく雲とか、あるいは雨上がりの虹とかそういう…

即興小説ログ「灰色の春」

 春が好きだった。  愛する草花が咲き乱れ、新生活に少し緊張した人々が街にあふれ、誰もが何かが始まると期待をする。そんな季節に生まれたことを、何度だって感謝した。  春が好きだった。  「……報告は以上だ」  そう言って真田が帽子の鍔を引いた様子を、気配だけで感じ取る。新しい練習メニューや新しい部員、みんながどんな風に練習に打ち込んでいるか、俺はずっと窓の外を見ながら聞いていた。  「順調そうじゃ…

お題「金木犀」「雨」「毒」

 香りや色のきつい草花には大抵毒があるもんや、毒草が好きなどという変わった趣味の持ち主がいつか言っていた。だから秋が来るたびどうしてかノスタルジーな気分を呼び覚ますこの香りにも毒があると信じて疑わなかった。  「金木犀? ゼロではないけど、毒草っちゅう分類ではないなあ」  それなのに、力説していた本人がそう言うものだから脱力してしまった。  「そうなんだ。質が悪いね」  なんとなしに感想を口にした…

お題「キスマーク」「友愛」「自傷」

 「ときどき頭の中でゴォーーーって音がして、何もわからなくなるんすよ」  薄暗い部室、蛍光灯を跳ね返すトロフィーたちの輝きがたまに呪いみたいに見える、なんて言っていたのは誰だったろう。うずくまって震える赤也の声は変なふうに反響して耳がおかしくなったのかと思う。ほらときどきあるだろう、夜の病室で誰の声もしない静寂なんてどうだい?  「人が傷ついてるか、自分なのか、それだけの話っす」  だったら自分の…

ありがちに恋を始める方法

「授業だりぃよ全っ然身に入んねえ。赤也が借りてる漫画の続き忘れやがったから続きが気になって仕方なくてさ。俺はちゃんとあいつに貸す分持ってきたんだぜ? ほんとあいつ、ああいうとこ、どうしようもねえよなあ。こないだもーー」 丸井はよく喋る。驚くほどよく喋る。昨日のテレビがどうした何組の誰々が誰々と付き合ってる新製品のガムは味の持ちが足りない云々。右から左へ抜けていく中身のない音の羅列は、雑多な会話の飛…